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スペイン静物画の世界

フアン・バン・デル・アメン《果物と野菜のある静物》、1625年 ©Photographic Archive. Museo Nacional del Prado. Madrid フアン・デ・アレリャーノ《花籠》、1670年頃 ©Photographic Archive. Museo Nacional del Prado. Madrid

 長崎県美術館では、現在、開館10周年の節目に合わせ、「プラド美術館所蔵 スペイン黄金世紀の静物画――ボデゴンの神秘――」展を開催しています。
 本展は、スペイン随一の美術館である国立プラド美術館のコレクションから静物画の優品8点を紹介し、一見、卑近ながらもその深遠な世界の一端に迫るものです。17世紀は、伝統的にスペイン絵画の「黄金世紀」と称されます。というのも同世紀において絵画芸術は、スペイン史上、最高の時代の一つを迎えたからです。
 この時代のスペインでは、宗教画や肖像画だけでなく、静物画が独自の発展を遂げ、それらは一般に「ボデゴン」と呼ばれます。ボデゴンは当時、新たなジャンルであり、17世紀初頭まで作例はほとんど見受けられません。その誕生と発展は、いわゆる「都市文化」の出現と関係しています。当時のスペインでは、王侯貴族や聖職者だけでなく、より広範な社会階層の人々が絵画を鑑賞するようになっていました。彼らはもはや絵画に対し、物語や教訓の伝達のみを求めていませんでした。というのも、その独創性や職人的な技巧、イリュージョニスティックな魅力(「だまし絵」的な魅力)もまた、評価していたからです。こうして、静物画はもともとあまり重要でないものと見なされていたものの、当時のスペインの人々は、単なる物語としての楽しみを超えた独特の視覚的な楽しみをもたらすものとして、ボデゴンを評価するに至ったのです。
 本展の出品作はいずれも、確かにベラスケス、スルバラン、ムリーリョらの巨匠でなく、ボデゴン専門の中小画家により描かれたものです。しかし、それら8点のボデゴンは過去のスペインの人々が暮らしていた世界の一端だけでなく、それぞれの作者の描写力や構成力を伝えてくれます。彼らは、一つひとつのモティーフを精確に写し取るだけでなく、それらの存在を大胆な光と影のコントラストにより神秘的なものとして際立たせています。そして、その画面には何よりも身の回りの「もの」への敬愛が溢れており、それは現代の日本を生きる我々にとっても親しみやすいものでしょう。

                      長崎県美術館  学芸員 豊田 唯

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