長崎県立対馬歴史民俗資料館の対馬宗家文書
対馬は九州本土と朝鮮半島との間に位置する“国境の島”です。博多(福岡県)まで航路にして140km、釜山(韓国)まで50kmであり、より朝鮮半島に近いことが分かります。島の90%は山地で占められ、農業生産に乏しいことから、古くから朝鮮半島との関係を築いてきました。その対馬を長きにわたって治めていたのが対馬宗家です(13世紀末?19世紀半ば)。「鎖国」で知られる江戸時代においては、幕府が設定した「四つの口(長崎口・対馬口・薩摩口・松前口)」の一つを担い、日朝関係史上、重要な役割を果たしてきました。朝鮮との外交・貿易は、特に故事や先例が重んじられたことから、膨大かつ「国際」性に富んだ対馬宗家文書が生み出されることになったのです。
現在、宗家文書は、日本国内外7ヶ所の収蔵施設に分割保管されています。その7ヶ所とは、?九州国立博物館(福岡県、約1万4000点)、?長崎県立対馬歴史民俗資料館(長崎県、約8万点)、?国史編纂委員会(韓国、約2万8000点)、?国立国会図書館(東京都、約1600点)、?東京大学史料編纂所(東京都、約3000点)、?慶應義塾図書館(東京都、約1000点)、?東京国立博物館(東京都、約160点)です。これらの施設が有する宗家文書は実に12万点を超えており、現存する大名家文書の中でも国内最大級と言われています。長崎県立対馬歴史民俗資料館では、このうち約8万点の宗家文書を収蔵していますが、未整理状態であった文書を整理し、その全貌が明らかになったのは、平成24年(2012)のことでした。調査自体、昭和50年(1975)に開始されていたものの、全貌を把握するだけで37年もの歳月を要したのです。
当館が収蔵する宗家文書のうち5万点余りは、平成24年(2012)と平成27年(2015)の2回に分けて、国の重要文化財に指定されました。“日本の宝”となったことで長崎県は、文化財保護法に基づき、「保存」と「活用」の責務を負うことになります。「保存」については、当館古文書補修員による日々の保存行為(メンテナンス)に加え、損傷の激しいものは専門業者に委託し、本格修理を施しています。また「活用」については、九州国立博物館との共催展示(平成24年)や、長崎歴史文化博物館での展示(平成25年)、ハングル・漢字混交書簡調査(平成25?26年)を実施し、成果の公表に努めてきました。しかし、どちらもまだ緒についたばかりであり、これから本格的に「保存」と「活用」を進めていかなければなりません。当館の今後の活動にぜひご注目ください。
長崎県立対馬歴史民俗資料館学芸員 古川 祐貴