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出土品を診察・治療する

遺跡から発掘される出土品の多くは割れていたり、錆びたりした状態で見つかります。人間に例えるならばケガや病気になった状態です。展示・活用するためには、保存処理や修復の作業が不可欠であり、その過程は人間の医療とよく似ています。お腹が痛くなって病院に行った際、問診や診察から入るのが普通で、いきなり「では、この注射を打ちましょう」というお医者さんはいないと思います。 
出土品に関してもどのくらい劣化しているのか、どのような材質でできているのかなどを調べた上で、適切な薬品や保存処理方法を選択していく必要があります。壱岐市にある長崎県埋蔵文化財センターにはそうした出土品を「診察・治療」する機器がそろっています。
診察の基本は、まず肉眼で観察し、手にとって慎重に取り扱いながら状態を確認します。次に、より細かい形状や内部の構造などは各種精密機器を用いて科学の目で精査していきます。もっとも頼りになるのが透過X線撮影装置で、健康診断でもおなじみの、いわゆるレントゲン撮影です。X線は光(電磁波)の一種ですが、とても強いエネルギーをもっており、錆や砂で覆われた状態で出土した金属製品の元々の形や、劣化状態を知ることができます。
例えば壱岐市の北西部に所在するカラカミ遺跡(弥生時代)からは、2011年の発掘調査で直径4cmほどの土の塊が出土しました。見た目は円盤状をした土の塊でしたが、手に取るとずっしりと重く、金属製品であることが予想されました。レントゲン写真を見ると、中央には鏡のつまみの部分が確認でき、また表面には櫛歯文や渦巻文もあって、小型の仿製鏡(中国鏡をまねて国内で造られた鏡)であることがわかりました。このレントゲン写真を元にメスや針を使って顕微鏡下で錆取り作業を行いました(写真1)。
他の例としては、2001年の発掘調査で出島和蘭商館跡から出土した鉄製品は、2008年発行の調査報告書にナイフの刃先として記載されていましたが、錆による崩壊が懸念されたため、長崎市から保存処理の依頼がありました。この三日月状に反った鉄製品をレントゲン撮影したところ、小さな長方形の穴が確認され、これは馬の蹄にあてがう蹄鉄だと判りました。当センターで錆を落とし、適切な保存処理を施しました(写真2)。
以上のように、先端の機器をもちいて診察・治療することで、出土品を後世に遺すことが可能となり、時には考古学的、歴史学的に貴重な情報を得ることもあります。大量に発掘される出土品に歴史的意義づけを行う一助となるよう、日々出土品の診察・治療は続きます。

長崎県埋蔵文化財センター 主任文化財保護主事 片多雅樹